コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
美味しい、と感想を述べると、ロザッティというコーヒー用の砂糖を使ったのだ、と友人は言った。
僕は、自分でいれたコーヒーが美味しかったためしがない。
それは多分に、ひとりで飲むコーヒーはおいしくない、という気分から来る問題だと思っていたのだが、今日の一杯は材料からして違うわけだ。美味しいはずである。
ロザッティはコーヒーをまろやかにするというから、甘党の僕にとっては相性もよいのだろう。
少なくとも、ここ1年ほどで一番うまいコーヒーであることは間違いない。
たまには、こういう日曜もいいものだ・・・。
だが、その心の平安を破ったのは、皮肉にもコーヒーを入れてくれた友人だった。
「そういえば、オタクっていう人たちって、現実の女の子よりも想像上のキャラクターのほうがいいんだって?」
〜〜〜〜〜〜〜ッ!(板垣恵介風)
危うくカップを取り落とすところだった。
なんだってそんな会話を持ち出してくるんだ。「そういえば」ってなんだ。そんな流れだったか。
いや、落ち着け。彼女はただ世間話を持ちかけてきただけだ。最近、テレビでアキバ系だなんだと言っているから、自然と出てきた話題に過ぎない。政治や天気の話をするのと変わらないのだ。
・・・くっ、どうしてこっちの目を見る。
探りなのか? 笑う気なのか? 敵方(←?)なのか?
待て待て、落ち着け。話をするときに目を見るのは当たり前じゃないか。過敏になるな、自分。
コーヒーの表面が揺れている。いや、揺れているのは僕の手か。
カフェインがもたらすというリラックス効果も、今の自分には無縁のことと思われた。
続けて友人が言う。
「想像の中だけじゃ、新しい発見とか、意外な出来事とか生まれないんじゃないかな?」
「・・・それは確かに。でも、想像の楽しみってのもあるんじゃない? 理想を追い求めるというか・・・傷つかずに済むというか・・・前向きではないかもしれないけど。
それにほら、必ず片方を取らなければいけないわけでもないし・・・。現実は現実、想像は想像と」
思わず答える僕。
「ふーん・・・そんなもんなのかな」
う、少し鈍い反応。少しオタク側への理解を示しすぎたか。
知らんふりだ、知らんふり。関心がなさそうに答えるんだ、マスク1号。
「・・・うん・・・。
僕には、

・・・れーちゃん先輩
あまり、

・・・一気に増えたカテゴリ
理解できないけれど、

・・・届いた確認メール
そんなところじゃないかと、





・・・クリアした主なキャラクターたち
・・・推測、されます。
「・・・そんなものなのかねー」
僕はようやくのことで、たぶんね、とだけ答えた。
やけに苦くなったコーヒーをすすりながら僕は、どれくらいロザッティを追加すれば元の味に戻るのだろうと考えていた。
友人にも自分にも嘘をついたその日。遅い時間に自宅へ戻ると、1枚のCDジャケットが目に入った。

「・・・すみません」
自然と口をついて出た言葉だったが、その謝罪が3次元に対して向けられたものか、2次元に対して向けられたものかは、自分でも、わからなかった。
ていうか、すみません聖奈さん。

すみません極上生徒会。

・・・現実では、擬態を使わなきゃいけないこともあるんですよ!(血涙)